メタ×グーグルの衝撃タッグ…GAFAMの競争関係が崩壊、新たなAI戦争時代への画像1
UnsplashのJulio Lopezが撮影した写真

●この記事のポイント

・メタが競合のグーグルに1.5兆円を発注、生成AI開発加速のため「時間を金で買う」戦略を選択。
・両社は広告やAIで競合しつつも、AIインフラでは利害一致し「協調と競争」の関係に移行。
・今後のAI競争はインフラ・モデル・アプリの三層構造で、最強のアライアンス構築が勝敗を左右する。

 米メタ(旧フェイスブック)が、生成AI開発を加速させるために競合であるグーグルのクラウドサービスを利用し、総額1.5兆円(約100億ドル)規模の発注を行った──。このニュースはテック業界に大きな衝撃を与えた。

 両社は広告市場でライバル同士であり、またAI開発でも覇権を争う立場にある。そのメタが、あえて「宿敵」のインフラを頼る選択をした背景には何があるのか。そしてこの動きは、GAFAM+OpenAIという巨大勢力の競争構造にどのような変化をもたらすのか。

 ニューズフロントLLPパートナーでテックジャーナリストの小久保重信氏に話を聞きながら、この動きを紐解いていく。

メタがグーグルに頼った理由:「時間を金で買う」

「一言で言えば『時間を金で買う』ためです。あるいは『スピードと専門性』を買うのです」

 小久保氏はこう語る。AI開発は、スピードがすべてのゲームだ。世界中の研究者や企業が日々新しいモデルを発表し、数か月単位で技術の優劣が入れ替わる。自社でゼロから大規模データセンターを建設し、GPUを百万基超で調達・稼働させるには数年単位の時間がかかる。その間にライバルは前進を続け、取り返しのつかない差がつく。

 メタはオープンソース戦略を掲げ、生成AIモデル「Llama」を公開している。しかし、その開発や学習には膨大な計算資源が必要だ。そこで同社は「世界最高水準のAIインフラ」を持つグーグルを利用する決断を下したのである。

 言い換えれば、メタにとってグーグルは「敵」であると同時に「最速の武器を調達できるサプライヤー」でもあるのだ。

なぜ競合同士が接近できるのか

 ここで浮かぶ疑問は、なぜ競合関係にあるメタとグーグルが「共存」できるのかという点だ。

 小久保氏は次のように指摘する。

「これは両社にとって明確なWin-Winの関係だからです。
 ・メタのWinは、AI開発に必要な『スピード』を手に入れること。
 ・グーグルのWinは、1.5兆円という巨額の売上と、競合すら利用するほど優れたインフラであるというブランド効果です」

 この関係は、スマートフォン市場の構図にも似ている。サムスンはアップルのライバルでありながら、iPhone向けの有機ELディスプレイを供給している。両社は販売の現場では戦うが、供給網では互いに欠かせない存在なのだ。

 今回のグーグルとメタもまた、事業部単位で見れば利害が一致した「合理的な提携」といえる。

GAFAMの競争関係は変質している

 では、この動きはGAFAM(Google, Apple, Facebook/Meta, Amazon, Microsoft)間の競争構造にどのような意味を持つのだろうか。

「単純な競争関係は崩れつつあります。今は“Co-opetition(協調と競争)”の時代です」と、小久保氏は強調する。

 背景には、AI開発にかかる莫大なコストと技術の専門性がある。AIの研究開発は、単に金を積めばできるものではなく、GPU調達ルートの確保、最適化されたデータセンター設計、そして高度な研究チームの存在が不可欠だ。

 もはや一社ですべての領域でトップを走り続けるのは不可能に近い。そのため、GAFAMの各社は「自社の強みに集中し、不足部分は競合からでも調達する」という現実的な戦略をとり始めているのだ。

AI競争の「三層構造」

 小久保氏によれば、今後のAI競争は「3つの階層」で展開されるという。

  1. インフラ層(計算基盤)
    クラウドや半導体をめぐる戦い。グーグル、アマゾン、マイクロソフトが中心で、NVIDIAも不可欠な存在。
  2. モデル層(頭脳)
    GPT(OpenAI)、Gemini(Google)、Claude(Anthropic)、Llama(Meta)など、生成AIそのものの競争。
  3. アプリ層(製品・サービス)
    ユーザーが直接触れるアプリケーション。Copilot、ChatGPT、Siri、WhatsAppのAIアシスタントなど。

 勝者は一社が独占するのではなく、この三階層をまたいで「最も強力なアライアンスを築いた陣営」となる。すでにマイクロソフトとOpenAIの提携は、その典型例だ。

 今回の「メタがグーグルに1.5兆円発注」という事実は、単なるIT業界のニュースにとどまらない。日本のビジネスパーソンにとっても、次のような示唆を含んでいる。

 ・スピードが最大の武器になる
 競合からでも「使えるものは使う」という柔軟性が、AI時代の成長企業に共通する。

 ・競争と協調の二重構造
 かつての「敵か味方か」という二分法ではなく、状況に応じて協調も競争も使い分けることが重要になる。

 ・生態系で勝つ発想
 単独で全領域を制覇するのではなく、自社の強みを軸にして最適なアライアンスを築くことが、AI時代の生き残り戦略となる。

新しいAI覇権争いの幕開け

 メタの今回の決断は、AI時代における企業戦略の縮図といえる。かつては「GAFAM同士は敵」という単純な構図だったが、いまや彼らは競い合いながら、必要に応じて互いの力を借り合う「共進化」の関係にある。

 そして、この動きはさらに複雑なアライアンスと競争を生み出し、次世代のAI覇権争いを形作っていくだろう。

 ビジネスパーソンに求められるのは、「敵か味方か」の発想を超え、状況に応じて協調と競争を柔軟に使い分ける視点だ。AI時代の勝者は、スピードとアライアンスを制する企業──そして個人である。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー)