
●この記事のポイント
・アマゾンやマイクロソフトなどが過去最高益を更新する一方で大規模人員削減を実施。AI導入による構造改革が進む。
・日本でもリコーやパナソニックなどが業績好調下で人員削減を発表。AI活用による“静かな構造改革”が拡大。
・「AIが人を奪う」ではなく「人の役割を再定義する」時代へ。経営者にはAI時代の組織設計力が問われている。
2025年7〜9月期決算。米アマゾン、マイクロソフト、メタ、アルファベット――いずれもAIを軸とした構造改革の真っただ中にあるテクノロジー大手が、そろって過去最高益を叩き出した。
アマゾンは純利益が前年同期比38%増の211億ドル(約3.2兆円)。これは同社史上最高である。その一方で同社は今月、1万4000人の人員削減を発表したばかりだ。
マイクロソフトも同じ期間の純利益が12%増の277億ドルと過去最高を更新。そのなかで2025年通年の削減数は約1万5000人に達する。
メタは一見すると純利益が83%減の27億ドルと大幅減益だが、これは税務関連の一時費用によるもので、実質ベースでは186億ドルの黒字と過去最高水準だった。
グーグルの持株会社アルファベットも、売上高が四半期ベースで初の1000億ドルを突破し、純利益も増加している。
つまり今、米テックのリストラが加速しているものの、それが経営悪化という図式は崩壊している。AI導入とクラウド最適化による生産性向上が、コスト削減を上回るスピードで進行しており、「業績が好調だからこそ人を減らせる」構造になっているのだ。
「AIは雇用を奪う」は誤解か、経営の再設計か
「人員削減の背景にあるのは単純なコストカットではありません。アマゾンやマイクロソフトの決算書を読み解くと、AI関連投資額の急増が確認できます。たとえば、アマゾンは生成AI開発基盤『Bedrock』やクラウドAIモデル群への投資を拡大しつつ、倉庫や物流現場の自動化を加速させています。マイクロソフトは『Copilot』を中心に、全製品にAI機能を組み込み、AI関連のR&D費用は前年の1.4倍に達しています。これらは『人を削減して空いた余力をAI投資へ再配分する』動きともいえます」(経済ジャーナリスト・岩井裕介氏)
つまり、人件費削減は“AI化のための再投資”の一環であり、経営のリストラクチャリングがAIを中心に再構築されている。
この流れは、AIブームという一過性のトレンドではなく、企業組織の「設計思想の転換」を意味している。かつては「組織を拡張して規模の経済をつくる」ことが成長戦略だったが、今は「AIを軸にした最適化による利益率の拡大」が最優先課題に変わっている。
では、日本はどうか。AI導入による構造改革はすでに静かに進んでいる。
昨年、リコーは業績好調の中で約2000人削減を発表。三菱電機は人数目標を明示しなかったが、AIを活用した業務効率化を理由に大規模な再配置を進めている。パナソニックHDも約1万人削減を表明しており、国内製造業の間でも「好業績下の人員見直し」が常態化しつつある。
各社は「AIが理由」とは明言していない。だが、実態を見ると明らかにAIシフトが背景にある。製造現場ではAIによる設備保守や検査の自動化、設計領域では生成AIによる設計支援、そしてホワイトカラー領域ではCopilotやChatGPT Enterpriseの導入が進み、“AIによる中間層の代替”が着実に進行している。
リコーのように事務系職種の業務自動化を徹底する企業では、労働時間当たりの生産性は2年で約1.3倍に達している。同社の2025年3月期決算は、売上高が微増にとどまった一方で営業利益は17%増を記録した。「AIで効率化した分だけ利益率が上がる」構図は、すでに日本でも実証されている。
「解雇できない国」で進む“静かな構造改革”
日本は解雇規制が厳しい国とされる。だが今、企業は「静かなリストラ」を加速させている。配置転換や早期退職募集、AIによるタスク削減による“自然減”を通じて、実質的な人員削減を進めているのだ。
「ある人事コンサルティング会社の試算では、2024〜25年度にかけてAI関連の業務効率化によって削減された雇用は約4万人規模に達するとみられています。特に影響を受けているのは、間接部門(総務・経理・営業支援など)と、顧客サポート職です。
その一方で、AI運用・プロンプト設計・データ分析などの専門職需要は急増しています。総務省の労働動態調査によると、AI関連職の求人倍率は2022年の2.1倍から2025年には4.7倍に上昇しており、雇用構造の地殻変動が進行しています」(同)
“解雇できない国”であっても、企業がAI導入を進める限り、“再教育・再配置を通じた人員再構築”は避けられない。そしてその結果、「AIによって生産性を高め、利益を確保しながら人を減らす」という米国型モデルに近づいていくのだ。
ここで重要なのは、「AIが人を不要にする」という発想を超え、“人の役割を再定義する経営”への転換である。マイクロソフトCEOサティア・ナデラは、決算説明会でこう述べている。
“AI is not replacing people. It is replacing tasks.”
(AIが置き換えるのは人ではなく、タスクだ。)
つまり経営の本質は「削減」ではなく「再構築」。不要になったタスクをAIに任せ、人は創造・判断・共感といった高次価値の領域にシフトすることが求められる。
日本企業にとっても、単なる“人減らし”ではなく、「AIをどう組織に埋め込み、どう再設計するか」という設計力が問われる時代に入った。例えば、ソニーグループやトヨタなどは、AI活用による生産効率化を進めつつ、従業員のAI教育プログラムを並行して整備している。トヨタは25年から、全社員対象の「AI活用認定制度」を導入予定であり、「AIが奪う」よりも「AIを使う」方向に軸足を移している。
「人員削減=悪」ではなく「生産性進化の通過点」
日本社会では、「人員削減=悪」という感情的反発が根強い。だが、AI時代においては、それが成長戦略の副作用として現れているにすぎない。むしろ注目すべきは、アマゾンやマイクロソフトが削減後も同規模、もしくはそれ以上の人材投資をAI分野に行っている点だ。
アマゾンのAWS部門ではAIエンジニア採用を前年比で32%増、マイクロソフトのCopilot部門でも採用を1.5倍に拡大している。つまり「削って終わり」ではなく、「削って作る」――創造的再配置の発想である。
今後、日本企業にも同様の変化が不可避となるだろう。業績が好調でも「現状維持ではAI競争に負ける」リスクが高まっており、組織の再設計が経営の最重要課題となる。
業績好調下での人員削減は、AIシフトのための再投資構造の一部だ。日本企業でも同様の動きがすでに進行中であり、解雇規制の中で「静かな構造改革」が拡大。経営者は「AIによる効率化」ではなく「AIを使う人間の再定義」へ舵を切る必要がある。
かつてリストラは“痛み”の象徴だった。だがAI時代のそれは、“進化”の通過点になりつつある。企業に求められるのは、人を減らす勇気ではなく、新しい価値を生み出す構造を設計する知恵である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)
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