2022年に上場し、2023年には売上高29億円、営業利益7億円超まで成長した株式会社ファインズ。しかし、その翌期以降、売上の伸び悩みや優秀な人材の流出という厳しい現実に直面しました。

その打開策として、ファインズが最初に着手したのは、「パーパスの再定義」です。なぜ、営業力の向上や教育制度の整備といった実務的な施策の前に、会社の根幹となるパーパスの策定を掲げたのでしょうか?代表取締役社長・三輪幸将氏に、その理由と未来への展望を聞きました。

「企業と地域社会の未来に、テクノロジーの追い風を。」──ファインズ三輪社長が明かすパーパス策定の舞台裏の画像1
写真)代表取締役 三輪幸将

「皆でつくるパーパス」にこだわった理由

——経営改革の出発点としてパーパスの再定義を選んだのはなぜでしょうか。

社員が持つ価値観をすり合わせ、同じ方向を向くことで、会社の成長をより加速させるためです。これまでも「誰からも必要とされる会社になる」という理念は掲げていましたが、その本質的な意義が曖昧で、社内で浸透していませんでした。結果として社員の方向性がバラバラになり課題の一因になっていたのです。

——実際にどんな課題があったのでしょうか。

2022年9月に上場し、2023年6月期には売上高29億、営業利益も7億ほどに成長しました。しかし、その翌期から売上高が伸び悩んでいます。さらに、人材の定着が進まず、優秀な人材が離職するケースも増えました。根本には、やはり経営理念やビジョンが真の意味で浸透しておらず、社員が同じ方向を向けていなかったことがあったと考えています。

——経営改革は、外部のコンサルタントではなく、社内に経営改革の担当者を置いて進めているそうですね。なぜでしょうか?

外部のコンサルタントの方にパーパス策定を丸ごと依頼すると、パーパスや改革の概要決定までにスピード感は出せますが、社長である私の意見や考えばかりが落とし込まれて、ただ社員に向けて発信されるという一方的なものになってしまう、と考えたためです。ファインズが組織として変化するためのパーパス策定は、ファインズに所属する皆の魂が入ったものでなければ、共感を得ることができず、意味のないものになってしまいます。

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そこで今回、組織に対して望んでいることや、どのようなパーパスを掲げたいかなどを探るため、社員全員へのアンケートや役職者へのフォーカスインタビューを行い、パーパスやバリュー策定の重要な材料として活用しました。その後、4回の役員合宿を経て、徐々に候補を絞り込んでいきました。

——実際に社員から上がってきた意見やアイデアにはどのようなものがあったのでしょうか?また、それを見てどう感じましたか?

さまざまな意見を目の当たりにできて、非常に勉強になりました。特にポジティブな意見が課長以下から挙がっているのに触れ、役職者だけではなく、多くの社員を巻き込んでダイナミックに行動していかなければいけないと痛感しました。一方でネガティブな意見に対しては、組織としての方向性を示せていなかったことへの自省も生まれましたね。

——今回は、パーパス策定の手順として役員合宿を行っていますよね。この合宿の際に感じたことも教えてください。

役員という立場でも、こんなにも意見や感覚が違うのだということに驚きがありました。今後、何年先の未来を見据えてパーパスを策定するのか?という部分も人によってバラバラだったのです。

とくに1回目の役員合宿では、役員間でもなかなかパーパス策定に対する目線が合わせられず、意見が出づらい状況でした。そこで2回目の役員合宿の前に、サステナビリティや社会貢献に関する勉強会やワークショップを行い、目線を合わせていくという工程も入れ込んでいます。2回目以降は、合宿での発言の質も徐々に変化していき、連鎖的に次々と新しいフレーズが出てくるなど、活発に議論が交わされていました。

最終的に、その場にいる皆の「ファインズにとって重要」と感じるキーワードが一致して、パーパスが決定しています。

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写真左)取締役 執行役員 佐藤翔太    写真右)取締役 執行役員 赤池直樹

パーパスのキーワードに込めた想い

——最終的に決定した『企業と地域社会の未来に、テクノロジーの追い風を。』というパーパスに込めた想いを教えてください。

「企業」は、全国に存在するファインズのステークホルダーの方々を表しており、「地域社会」とは、その企業の方々の先にいるお客さまや、企業が影響を与える地域に根付く方々を内包する形で表しています。ファインズと直接的に関わっている企業の方々だけでなく、その企業の方々からつながる方々すべてに、我々が提供するテクノロジーでより豊かに、笑顔で生活していただきたいという想いを込めたものです。

また、現在の我々のプロダクトは動画やそのデータ活用によるDX、マーケティング支援ですが、あえてDXなどのキーワードは使っていません。これは、今後ファインズが何十年も歴史を刻んでいく上で、「必ずしもDXという枠に収まり続けるわけではない」と考えたためです。

過去数十年を振り返っても、AIの登場などテクノロジーの分野は日々変化しています。そういった世の中に変化を取り入れて、サービスやプロダクトをアップデートさせていける部分はファインズの強みです。枠にとらわれず、強みを活かし続けるために、あえて「テクノロジー」という広義に捉えられるキーワードを使っています。

——今回のパーパス策定にともない、4つのバリューも策定していますが、このバリューを策定する際に重要視したことはなんでしょうか?
 
今回、「大胆に挑戦する」「誠実に向き合う」「変化を楽しむ」「学び続ける」というファインズの社員としての行動指針を示したバリューも、パーパスと同時に策定しています。

バリュー策定の際に重要視したポイントはおもに3つです。「社員自身がこうありたいと感じること」「経営層が社員に求めること」「ファインズが中長期的に成長していくために必要なこと」この3つに重きを置いて絞り込みました。

バリューは、新しい評価制度に紐づくものになっています。これまでのファインズの評価基準は営業職に寄っていて、定量的な部分を意識したものでした。今後は、これにパーパスへの共感やバリューに基づく行動など、定性的な部分も含めて評価していきます。現場にいけばいくほど、プロセスを評価する定性的な部分を重要視していく形の評価制度になる予定です。

——今後、パーパスやバリューをどのように社内に浸透させていくのでしょうか?

直近では全社朝礼などでの周知、詳細部分については動画や勉強会を行っています。また、中長期的な観点でのパーパス浸透がなされていくことが理想ですね。
 
今回策定されたパーパスに共感し、バリューをもとに行動して成果を出した社員がマネージャー以上になることで、どんどんパーパスやバリューが継承されていくと考えています。

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写真左)執行役員 土屋政紀    写真右)執行役員 塩田広大

まずは足元から。ファインズが実現させたい未来

——パーパスの浸透は、ファインズの今後の成長や経営にどのような変化をもたらすと考えていますか?

「働きがい」に変化をもたらしてくれるのではないかと期待しています。

ファインズは、上場企業になり、福利厚生や制度などの面で「働きやすい会社」になったと自負しています。しかし、働きやすさと働きがいは別のものですよね。パーパスが浸透し、バリューを重要視して動くことで社員は受け身でなく、自らが選択して行動する自立的な動きをするようになり、それが働きがいにつながると考えています。そうなったとき、ファインズは社員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できる会社になると思っています。

——対外的にはどのような変化が起きると考えていますか?

パーパス策定を含めた経営改革を対外的に周知することで、実行力を監査される立場になります。しかし、その責任をしっかりと果たすことで、より世の中から認められる会社になれると考えています。

実は、今回社員にとったアンケートのなかに「世の中から認められる人間になりたい」「家族に自慢できる会社で働きたい」という意見がありました。今回のパーパス策定の取り組みが世の中に認められることで、ファインズで働いていることがステータスになり、こういった期待を寄せてくれている社員の皆にも還元していくことができると感じます。

——それでは最後に、パーパスを通じて経営者として実現したいことを教えてください。

「パーパスを通じて」というより、パーパスそのものが実現したい未来だと思っています。今回のパーパスは、時間が経っても色あせず、光を放ち続けられるようなものをと考えて策定しました。10年、20年先も「企業と地域社会の未来にテクノロジーで寄り添う」という姿勢を貫いていきたいですね。

パーパスの実現に尽力することは、「日本全体を盛り上げて、よりよい国にする」ということにもつながることなのでしょうが、今の私がそこまでを語るのはまだ早いとも感じています。まずは足元から。お客様や地域社会の未来に、我々が持つテクノロジーの力で寄り添っていくことを、しっかりと実現させたいですね。

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組織の方向性を示す“軸”となるパーパス。それを全社員が一丸となって築き上げたことで、ファインズは次の成長に向け、大きく舵を切りました。テクノロジーの力で、「企業と地域社会の未来」をどう照らしていくのか。成長の経験と試練を糧にしたファインズの挑戦は、まさにこれからが本番です。